ホロライブ中国で何があったのか――。発端となったのは、2020年9月、VTuberの桐生ココと赤井はあとがYouTubeの視聴者データを配信で紹介した際に、台湾が表示されたことだった。この出来事は中国のインターネット上で大きな批判を呼び、運営会社のカバー株式会社による3週間の活動自粛、日本語と中国語の声明をめぐる論争へと発展した。
その後、ホロライブ中国(hololive CN)の所属タレント6人が全員卒業し、中国向けの継続的な配信活動も事実上終息した。一方、2023年には公式Bilibiliアカウントの動画投稿が再開され、2026年には中国・上海で公式発表に基づくライセンス商品イベントも開催されている。過去の騒動から現在までを時系列で整理すると、単純な「中国からの全面撤退」という説明だけでは見えない、配信プラットフォーム、政治的な認識の違い、海外事業の運営リスクが浮かび上がる。
【発端を解説】ホロライブ中国で何があった?桐生ココ・赤井はあとの台湾発言騒動

騒動が起きたのは2020年9月24日から25日にかけてだ。ホロライブ所属の赤井はあとと桐生ココが、それぞれ自身のYouTube配信でチャンネルの視聴者構成を紹介したところ、画面上に台湾が表示されていたことが問題視された。
当時の報道によると、赤井はあとの配信では台湾の視聴者が全体の約7%、桐生ココの配信では約4.7%を占めていた。両名は視聴者データを紹介する過程で台湾に言及したが、中国の一部の視聴者は、台湾を独立した国として扱ったと受け止め、強く反発した。
ここで押さえておきたいのは、発端が台湾の政治的地位についての独立した声明ではなく、YouTubeの視聴者統計を紹介する配信だったという点だ。配信画面に表示された地域名と国際政治上の立場が結び付けられたことで、エンターテインメントの配信が政治的な対立へと転じた。
中国の動画プラットフォームBilibiliでも批判が広がり、関連動画が削除され、両名のアカウントに対して厳しい措置が取られたと報じられた。騒動は本人たちだけにとどまらず、ホロライブ全体の中国向け活動や、運営会社カバー株式会社の危機対応にまで波及していく。
カバー株式会社は2020年9月27日付の発表で、両名の活動を3週間自粛させる方針を示した。理由として挙げたのは、YouTubeのチャンネル分析データの公開と、一部地域の視聴者への配慮を欠いた発言だった。活動自粛期間は9月28日から10月19日までとされた。
会社側は当初、意図的な政治的主張ではなかったという趣旨の説明も行った。しかし、批判を収束させるための処分と説明が、別の地域のファンからは不当だと受け止められた。ここから、台湾発言そのものに加え、運営会社の対応の妥当性も大きな争点になった。
【炎上の核心】なぜ中国で批判が拡大した?日本語版と中国語版の声明の違い
騒動をさらに大きくしたのが、カバー株式会社による日本語版と中国語版の説明の違いだった。
2020年9月30日付のITmedia NEWSの報道によると、カバー株式会社は、日本語圏と中国向けの説明に食い違いが生じ、混乱を招いたことを謝罪した。中国向けの声明では、中国の主権と領土保全を尊重し、「一つの中国」の原則を支持するという趣旨の表現が盛り込まれていた一方、日本語版では同様の政治的表現が使われていなかった。
中国の視聴者からは台湾への言及や会社の初動に対する批判が起こり、日本語圏では中国向けの声明の内容や、タレントに対する3週間の活動自粛を疑問視する反応が広がった。つまり、同じ声明が、異なる地域で相反する批判を招く状況になったのである。
カバー株式会社は中国向けの表現について、動画削除後もタレントへの中傷が続き、中国現地の協力会社とも協議した結果、タレントや社員の安全を守るためには不適切な言動への言及を強める必要があると判断した、と説明した。加えて、経営責任を明確にするための対応や、コンプライアンス体制の強化についても公表している。
この経緯から見えてくるのは、問題が台湾発言だけで完結していなかったことだ。運営会社は中国市場で事業を続けるための対応を試みたものの、その対応が別の地域のファンから批判され、結果として企業の説明責任そのものが問われる展開になった。
VTuber事業では、タレント本人の配信がブランドイメージに直結する。しかも、配信内容は切り抜きや転載によって国境を越えて拡散する。国や地域ごとに異なる政治的・社会的な受け止め方がある以上、一地域への対応が他地域の信頼を損なう可能性もある。2020年の騒動は、その難しさを示した事例だった。
【時系列で整理】ホロライブCNの解散と所属タレント全員卒業までの経緯
ホロライブCNは、カバー株式会社が中国向けに展開していたVTuberグループだ。2019年に活動を開始し、Bilibiliを主要な活動の場として中国の視聴者に向けて配信やコンテンツ展開を行っていた。
しかし、2020年秋の台湾発言騒動を境に、中国向け事業を取り巻く状況は大きく変わる。11月にはホロライブCNのメンバーの卒業が公式発表され、追加発表を経て6人全員の卒業が決まった。公式発表は個々のメンバーの卒業という形で進められたため、「ホロライブCNの解散」は一つの発表日だけで説明できる出来事ではない。
| 時期 | 主な出来事 | 確認できる内容と影響 |
|---|---|---|
| 2019年9月 | ホロライブCNが活動を開始 | 中国向けVTuber事業を展開し、Bilibiliを主要な活動拠点とする。 |
| 2020年9月24~25日 | 赤井はあと・桐生ココの台湾発言騒動 | YouTubeの視聴者データに台湾が表示されたことをめぐり、中国のインターネット上で批判が拡大。 |
| 2020年9月27~30日 | 活動自粛と会社の追加説明 | 両名に3週間の活動自粛措置。日中の声明の違いが新たな論争を呼んだ。 |
| 2020年11月 | ホロライブCNメンバーの卒業を発表 | 夜霧、Civia、Artia、Doris、Rosalyn、黒桃影の6人全員が卒業することになった。 |
| 2020年末 | 中国向けグループの活動が事実上終息 | メンバーの卒業が進み、ホロライブCNとしての継続的な活動は終了した。 |
| 2021年7月1日 | 桐生ココが卒業 | ホロライブ4期生としての活動を終了。卒業発表では本人との協議を経て意向を尊重したと説明された。 |
| 2023年8月 | Bilibili公式アカウントで動画投稿が再開 | 約3年ぶりの投稿として注目されたが、ホロライブCNの復活を意味するものではなかった。 |
| 2026年8~9月 | 上海で公式ライセンス商品イベントを開催 | 現地での商業展開が確認された。一方、中国向けグループの再結成や定常的な配信活動再開とは別の動きである。 |
2020年11月12日、カバー株式会社は夜霧、Civia、Artia、Doris、Rosalynの5人について卒業を発表した。その後、11月16日の追加発表で黒桃影の卒業も公表され、メンバー全員がグループを離れることになった。
当初の発表ではメンバーごとに卒業予定日が示され、その後一部の日程も変更された。卒業発表の内容と各メンバーの活動終了を経て、ホロライブCNは事実上の活動終了に至った。
ここで注意したいのは、6人全員の卒業を、全員が同じ理由で離れたことの証拠として扱わないことだ。会社の発表で確認できるのは卒業の事実と日程であり、個々のメンバーの意思決定の詳細まで一律に説明されているわけではない。
また、桐生ココの卒業は2021年7月1日で、ホロライブCNメンバーの卒業とは別の出来事だ。台湾発言騒動後の中傷や活動環境との関連が指摘されてきたものの、カバー株式会社の2021年6月9日付の卒業発表は、本人との協議を経て本人の意向を尊重したと説明しており、台湾発言騒動を直接の卒業理由として明記してはいない。
【中国市場撤退の理由】Bilibiliとの関係とホロライブの事業上の課題
ホロライブ中国の活動が終息した背景には、台湾発言騒動による反発だけでなく、中国市場でVTuber事業を継続する難しさがあった。
第一に、Bilibiliへの依存度が高かったことが挙げられる。ホロライブCNは中国の視聴者との接点としてBilibiliを主要な活動拠点にしていたため、プラットフォーム上での批判やアカウント運用上の問題は、現地での活動に直接影響する。今回のように政治的な争点が配信内容と結び付けば、コンテンツの公開やファンとの交流を安定的に続けることが難しくなる。
第二に、タレントの安全と企業ブランドの両立という課題がある。カバー株式会社は2020年9月の声明で両名の活動自粛を発表し、同月30日には日本語圏と中国向けの説明に食い違いが生じたことを謝罪した。どちらか一方の市場で批判を抑えるための対応が、別の市場では信頼を損なう可能性があることが露呈した。
第三に、中国向け事業を独立して維持するための運営コストやコンプライアンス上の負担だ。VTuberの活動は、配信者本人だけでなく、プラットフォーム、現地協力会社、翻訳や宣伝の担当者、権利管理など複数の要素に支えられている。政治的な対立が起きた場合、コンテンツの修正や公開停止だけでは問題が収まらず、事業全体の継続判断にまで影響する。
ただし、ホロライブCNの活動終了を「台湾発言だけが原因だった」と断定するのも正確ではない。騒動は大きな転機だったが、事業撤退を単独の理由で説明する公式発表があるわけではない。確認できるのは、騒動後にメンバー全員の卒業が発表され、継続的な中国向け活動が終息したという経緯だ。
また、2021年3月17日には、カバー株式会社が2020年9月27日の声明に至った経緯と今後の方針について説明した。これは、当時の対応を単発の謝罪で終わらせず、コンプライアンスや運営体制の見直しを進める必要があったことを示している。
中国市場からの撤退は、単に一つの配信プラットフォームを使わなくなったという話ではない。現地ファンへのアクセス、タレントの活動環境、ブランドの信頼、国際的な事業運営をどう両立させるかという経営判断の問題だった。
【中国ファンの反応・評判】騒動で何が分かれ、どんな誤解が残ったのか
騒動当時の反応は、一枚岩ではなかった。台湾への言及を問題視する中国の視聴者がいた一方で、タレントへの活動自粛や、日本語版と中国語版の説明の違いに疑問を呈するファンもいた。日本語圏でも、運営会社の対応がタレントを十分に守るものだったのか、また中国市場を優先するために他地域のファンを軽視していないか、といった批判が起きた。
この対立は、ホロライブのファンが国や地域によって分断される危険性を浮き彫りにした。VTuberはオンラインで世界中の視聴者とつながる存在だが、同じ配信内容でも、政治的な背景や地域ごとの認識によって受け止め方は異なる。ファン同士の対立が深まると、タレント本人や運営スタッフへの中傷に発展することもある。
ネット上では、この騒動についていくつかの誤解も生じやすい。
誤解1:桐生ココと赤井はあとが台湾独立を主張した。
騒動の発端は、YouTubeの視聴者データを紹介する配信で台湾が表示されたことだった。政治的な独立宣言を行ったという説明は、当時の出来事そのものとは異なる。
誤解2:ホロライブCNは一度の発表で正式に解散した。
公式に発表されたのはメンバーの卒業であり、5人の卒業発表と黒桃影の追加発表を経て、全員がグループを離れた。事業の終息と、単一の解散発表は区別して理解する必要がある。
誤解3:桐生ココの卒業理由は台湾発言騒動だったと公式に確定している。
騒動後の中傷などとの関連は指摘されているが、公式の卒業発表では、本人との協議を経て意向を尊重したと説明されている。騒動が直接の理由だったと公式に断定することはできない。
こうした誤解を避けるには、SNS上の断片的な投稿や切り抜きだけで判断せず、会社の発表、当時の報道、実際に起きた活動停止や卒業の時系列を照らし合わせることが大切だ。ファンの反応を理解することと、個々の反応を中国の視聴者全体の意見として扱うことも、分けて考えたい。
【2026年最新】ホロライブと中国の現在の関係、再進出の可能性
2026年現在のホロライブと中国の関係を考えるうえで、重要なのは「中国向け事業の全面復活」と「中国での個別の商業展開」を区別することだ。
最初に、2023年8月には、ホロライブのBilibili公式アカウントで約3年ぶりに動画投稿が再開されたと報じられた。これは中国のファンの間で再進出への期待を呼んだものの、動画投稿の再開だけで、ホロライブCNの復活や中国での定常的な配信活動の再開が決まったわけではない。
2024年には、夏色まつりのBilibiliでの配信が告知されたものの、予定されていた配信は制作上の理由により中止された。Bilibili上での動きがあったことは事実だが、この中止を台湾発言騒動への対応や政治的な圧力の結果だと断定する根拠はない。
そして2026年には、さらに具体的な商業展開が確認できる。カバー株式会社は2026年8月10日付の公式発表で、ライセンス商品を扱うSUNRISEPOPとの共同企画「holonatsu Paradise」を告知した。イベントは8月30日から9月9日まで、中国・上海のBailian ZX Creative Centerで開催され、グッズ販売などが行われた。
このイベントには、大空スバル、兎田ぺこら、不知火フレア、白銀ノエル、宝鐘マリン、こぼ・かなえる、森カリオペのビジュアルが使用された。中国本土でホロライブ関連のライセンス商品イベントが開催されたことは、2026年時点で確認できる具体的な動きの一つだ。
ただし、これはホロライブCNの復活や、Bilibiliでの継続的な配信運営が再開されたことを意味しない。ライセンス商品の販売や期間限定イベントは、VTuber本人が定常的に配信する体制とは異なる。2026年の現状は、中国での商業展開が一部で進んでいる一方、ホロライブCNの再結成や本格的な配信事業の復活が確認された状態ではない、と整理するのが適切だ。
では、今後の再進出はあり得るのか。可能性そのものは否定できない。すでにライセンス商品イベントという形で中国本土での展開が行われているためだ。ただし、常設の配信事業を再開する場合には、現地の規制やプラットフォームの運用方針、タレントの安全、政治的な争点への対応、現地パートナーとの役割分担など、解決すべき課題が残る。
今後の動向を見極める際は、単発の商品イベントや公式アカウントの動画投稿だけで「全面再進出」と判断しないことが重要だ。公式による継続的な配信告知、現地での運営体制、所属タレントの活動方針などが具体的に発表されるかどうかが、再進出を判断するうえでの基準になる。
【ホロライブ中国何があった】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ホロライブの台湾発言騒動は、いつ起きましたか?
A1:2020年9月24~25日に、赤井はあとと桐生ココがYouTubeの視聴者データを紹介した際、台湾が表示されたことをきっかけに批判が拡大しました。カバー株式会社は同月27日に両名の3週間の活動自粛を発表しました。
Q2:ホロライブCNの所属タレントは全員卒業したのですか?
A2:はい。夜霧、Civia、Artia、Doris、Rosalyn、黒桃影の6人全員について卒業が発表され、2020年末までにグループとしての活動は事実上終息しました。
Q3:桐生ココは台湾発言騒動が原因で卒業したのですか?
A3:騒動後の中傷などとの関連は指摘されていますが、公式発表では本人との協議を経て意向を尊重したと説明されています。台湾発言騒動が直接の卒業理由だったと公式に明記されたわけではありません。
Q4:ホロライブは2026年に中国へ再進出したのですか?
A4:2026年には上海で公式ライセンス商品イベントが開催されており、中国本土での商業展開は確認できます。ただし、ホロライブCNの復活やBilibiliでの定常的な配信活動再開とは別の動きです。
【プロの結論】まとめ:ホロライブ中国騒動から現在の再進出をどう見るべきか
ホロライブ中国騒動は、2020年9月の台湾発言をめぐる炎上だけでなく、その後の活動自粛、運営会社の声明をめぐる批判、ホロライブCNの全員卒業、中国向け事業の終息へと連鎖した出来事だった。
騒動の核心にあったのは、視聴者データの紹介という配信上の行為が、台湾の政治的な位置付けをめぐる対立と結び付いたことだ。加えて、地域ごとに異なる説明が新たな不信を生み、企業が複数の市場でタレントの安全とブランドへの信頼を同時に守る難しさを露呈した。
一方、2026年には上海で公式ライセンス商品イベントが開催されている。これは中国市場との接点が完全に消えたわけではないことを示すが、ホロライブCNの復活や定常的な配信事業の再開と同じ意味ではない。
今後の動向を判断する際は、過去の炎上に関する憶測だけでなく、公式発表に示された事実、実際に行われた活動、商業展開と配信運営の違いを確認することが重要だ。ホロライブと中国の関係は、過去の騒動だけで固定的に捉えるのではなく、どの形の活動が、どの範囲で再開しているのかを具体的に見ていく必要がある。