サッカーの世界最高峰の大会、FIFAワールドカップ。その優勝チームが掲げる黄金のトロフィーには、約90年以上にわたる歴史と、盗難事件、永久保持をめぐる規則、そして現在もFIFAが厳重に管理する特別な事情があります。2026年大会を経た今、改めて知っておきたいのが、ワールドカップトロフィーの正式名称や値段、本物を優勝国が持ち帰れるのかという疑問です。
実は、現在のトロフィーと初代のジュール・リメ・トロフィーは別物です。かつてブラジルが初代トロフィーを永久保持できた理由や、盗まれたトロフィーを犬が発見した事件、台座の裏側に刻まれる優勝国名の仕組みまで、FIFAの公式資料や2026年の関連発表をもとに整理します。
【正式名称と値段】ワールドカップトロフィーの正体とは?

現在、FIFAワールドカップの優勝チームに授与されるトロフィーの正式名称は、英語で「FIFA World Cup Trophy」、日本語では「FIFAワールドカップトロフィー」と呼ばれます。初代のジュール・リメ・トロフィーとは区別される、1974年大会から使われている2代目のトロフィーです。
デザインを手がけたのは、イタリアの彫刻家シルビオ・ガッザニーガ。地球を両手で支えながら勝利を喜ぶ2人の人物を表現しており、サッカーを通じた世界の一体感や勝利の瞬間を象徴しています。
FIFAの公式資料などで紹介されている主な仕様は、次のとおりです。
- 高さ:36.8cm
- 重量:6.175kg
- 素材:18金
- 純金含有量:約4.93kg
- 台座:緑色の半貴石マラカイトを使用
- 現行デザインの初登場:1974年大会
なお、「18金製」という表現は、トロフィー全体が純金でできているという意味ではありません。18金は金の含有率が75%の合金です。重量6.175kgに対して、純金の含有量は約4.93kgとされています。
ワールドカップトロフィーの値段は約2000万ドル?
トロフィーの値段を調べると、約2000万ドルという評価額を目にすることがあります。しかし、これはFIFAが公表した公式販売価格ではありません。トロフィーは一般の商品として売買されるものではなく、歴史的価値や希少性を含めた評価額についても、広く流通している数字と公式な鑑定額を区別する必要があります。
一方、金そのものの価値については、具体的な試算が公表されています。ロンドン証券取引所グループのLSEG Metals Researchが2026年6月9日に発表した分析では、トロフィーに含まれる金の価値は約71万3000ドルと推計されました。2022年時点の約27万7000ドルから、150%以上上昇した計算です。
ただし、この数字は2026年6月時点の金価格などを基にした素材価値の試算です。歴史的価値や芸術作品としての価値を含むトロフィー全体の評価額とは異なります。
つまり、ワールドカップトロフィーの価格を考えるときは、次の3つを分けることが大切です。
- 金の素材価値:含有する金の量と市場価格から算出する価値。
- 歴史的・文化的価値:世界最高峰の大会の象徴としての価値。
- 実際の取引価格:一般市場で売買される商品ではないため、通常の市場価格としては示せない。
金の価格だけでは説明できない歴史と象徴性こそ、このトロフィーが特別視される理由です。
【ジュール・リメ・トロフィーとの違い】歴代トロフィーの歴史を比較
ワールドカップの歴史を語るうえで欠かせないのが、初代のジュール・リメ・トロフィーです。1930年の第1回大会から使用され、現在のトロフィーとは素材もデザインも異なります。
初代トロフィーはフランスの彫刻家アベル・ラフルールが制作しました。勝利の女神ニケが杯を掲げる姿を表現したもので、当初は「Victory(勝利)」と呼ばれていました。その後、ワールドカップの創設を主導したFIFA会長ジュール・リメの功績をたたえ、1946年にジュール・リメ・トロフィーへと改称されました。
一方、現在のトロフィーは、初代がブラジルに永久保持されたことを受けて新たに制作されたものです。両者の主な違いを比較すると、次のようになります。
| 比較項目 | ジュール・リメ・トロフィー(初代) | FIFAワールドカップトロフィー(現行) |
|---|---|---|
| 使用開始 | 1930年 | 1974年 |
| 制作者 | アベル・ラフルール | シルビオ・ガッザニーガ |
| 素材 | 金めっきの銀製、ラピスラズリの台座 | 18金製、マラカイトを用いた台座 |
| デザイン | 勝利の女神ニケが杯を掲げる姿 | 2人の人物が地球を掲げる姿 |
| 永久保持 | ブラジルが1970年に永久保持 | 優勝国による永久保持は認められない |
| 現在の状況 | 1983年の盗難後、行方不明 | FIFAが所有・管理 |
初代と現行のトロフィーを分けて理解する最大の要点は、優勝国が永久保持できた時代と、FIFAがトロフィーを管理する現在の制度との違いです。
現行トロフィーは、1974年の西ドイツ大会で初めて授与されました。それ以降、優勝チームが掲げる黄金のトロフィーとして、ワールドカップの象徴的な存在になっています。
【ブラジルが永久保持した理由と盗難事件の真相】犬が発見した歴史的事件
なぜブラジルだけが初代トロフィーを永久保持できたのか
ブラジルがジュール・リメ・トロフィーを永久保持できたのは、当時の規則で、ワールドカップを通算3回制した国にトロフィーを永久に与えることが定められていたためです。
ブラジルは1958年、1962年、1970年の大会で優勝し、史上初めて3度の世界制覇を達成しました。その結果、1970年大会の優勝後に初代トロフィーを永久保持する権利を得ました。
この制度は、現在のトロフィーにも適用されるものではありません。1970年に初代がブラジルの所有となったことを受け、FIFAは新しいトロフィーを制作し、1974年大会から現行デザインを使用しています。
1966年の盗難事件と、犬のピクルスが発見した経緯
ジュール・リメ・トロフィーをめぐる事件として有名なのが、1966年にイングランドで起きた盗難事件です。ワールドカップ開幕を約4か月後に控えた3月20日、ロンドンのウェストミンスター・セントラル・ホールで開かれていた切手展示会から、展示中のトロフィーが盗まれました。
FIFAの公式記事によると、展示には施錠されたガラスケースや警備などの条件が設けられていましたが、展示会が閉まっていた時間帯に侵入され、トロフィーが持ち去られました。警察には偽の情報や身代金要求が寄せられ、事件は大きな騒動に発展しました。
事件発生から約1週間後、状況は思いがけない形で動きます。デビッド・コーベットが愛犬のピクルスを連れてロンドン南部を歩いていたところ、犬が近隣の車のそばに置かれた新聞紙とひもで包まれた荷物に興味を示しました。
コーベットが包みを開けると、そこには行方不明になっていたトロフィーが入っていました。こうして、名犬ピクルスは盗まれたワールドカップトロフィーを発見した犬として世界的に知られるようになりました。
この事件では、身代金の受け渡しに関与したエドワード・ベッチリーが逮捕され、仲介役として有罪判決を受けました。一方、実際にトロフィーを盗んだ人物は特定されませんでした。発見されたトロフィーは、同年のイングランド大会で使用されました。
1983年、ブラジルで起きた2度目の盗難
初代トロフィーは、その後も無事だったわけではありません。ブラジルが永久保持していた1983年、リオデジャネイロにあるブラジルサッカー連盟の本部から再び盗まれました。
今回の事件では、1966年のように犬が発見するという結末は訪れませんでした。トロフィーは現在まで発見されておらず、溶かされて金属として処分された可能性が広く指摘されています。ただし、溶解されたこと自体が確実に立証されたわけではありません。
この2つの盗難事件は、歴史的なスポーツ記念品が持つ価値と、適切な保管・管理がいかに重要かを示しています。現行のFIFAワールドカップトロフィーが、FIFAの管理下に置かれている背景を理解するうえでも重要な歴史です。
【優勝国は本物を持ち帰れる?】現在の保管ルールとレプリカの見分け方
優勝チームが掲げる本物は、その後どうなる?
ワールドカップで優勝したチームは、決勝後の表彰式で本物のFIFAワールドカップトロフィーを掲げます。しかし、本物を優勝国が永久に所有できるわけではありません。
2026年大会の大会規則でも、優勝チームは表彰式でトロフィーを受け取りますが、式典後、スタジアムを離れる前にFIFAへ返却することが定められています。その後、優勝チームには「FIFA World Cup Winner’s Trophy(FIFAワールドカップ・ウィナーズ・トロフィー)」が渡されます。
本物はFIFAが所有し、次の大会や公式行事に備えて管理します。大会間の保管先として知られているのは、スイス・チューリヒのFIFA本部です。
なお、優勝チームに渡されるウィナーズ・トロフィーも、厳密にはFIFAの所有物です。大会規則では、優勝協会が保管する場合でも、FIFAから書面で返還を求められれば速やかに返却しなければならないとされています。「優勝記念として渡されること」と「所有権が完全に移転すること」は、分けて考える必要があります。
本物とレプリカを見分けるポイント
本物とレプリカの違いを知るには、素材だけでなく、どの種類のトロフィーを指しているのかを理解することが大切です。
- 本物のFIFAワールドカップトロフィー:18金製で、重量は6.175kg。FIFAが所有し、限られた関係者だけが触れることを認められている。
- FIFAワールドカップ・ウィナーズ・トロフィー:優勝チームに授与される金めっきのトロフィー。大会の年や開催国、優勝国に関する情報が刻まれる。
- 市販のレプリカや記念品:公式ライセンス商品を含む複製品。素材やサイズ、製造仕様は商品ごとに異なる。
注意したいのは、見た目が黄金色だからといって本物とは限らないことです。優勝チームに渡されるウィナーズ・トロフィーも金色をしているため、写真だけで両者を確実に判別するのは困難です。
信頼できる判別基準は、FIFAによる管理・授与の経緯、公式記録、素材の仕様、製品の来歴などです。特に一般販売されているレプリカを本物と同じものとして扱ったり、金色の外観だけで価値を判断したりするのは避けるべきです。
一般のファンは本物に触れられる?
本物に触れることが認められているのは、FIFAワールドカップの優勝経験者、国家元首、FIFA会長など、ごく限られた人々です。一般のファンは、公式のトロフィーツアーなどで本物を間近に見る機会を得られますが、通常は自由に持ち上げたり触れたりすることはできません。
こうしたルールは、トロフィーの希少性を守るだけでなく、盗難や破損のリスクを抑え、世界中のファンが共有するスポーツ史の象徴を次の大会へ引き継ぐための管理体制でもあります。
【台座の刻印の仕組み】歴代の優勝国名はどこに記される?
現行のワールドカップトロフィーには、歴代優勝国に関する情報が刻まれています。ただし、テレビ中継で映る正面部分に大きく国名が並んでいるわけではありません。FIFAの説明によると、1974年大会以降の優勝年と優勝国名は、トロフィーの台座の下側に刻印されています。
トロフィーの台座には、緑色のマラカイトが使われています。地球を掲げる人物の彫刻と台座が一体となったデザインは、現行トロフィーの大きな特徴です。歴代優勝国の刻印は、このトロフィーが単なる優勝賞品ではなく、大会の歴史を蓄積していく記念物でもあることを示しています。
1974年から2022年までの優勝国
現行トロフィーが使用され始めた1974年大会から、2022年のカタール大会まで、刻印の対象となる優勝は13大会分に達しています。優勝国を大会順に並べると、次のとおりです。
- 1974年:西ドイツ
- 1978年:アルゼンチン
- 1982年:イタリア
- 1986年:アルゼンチン
- 1990年:西ドイツ
- 1994年:ブラジル
- 1998年:フランス
- 2002年:ブラジル
- 2006年:イタリア
- 2010年:スペイン
- 2014年:ドイツ
- 2018年:フランス
- 2022年:アルゼンチン
2026年大会の優勝国も、現行トロフィーの歴史に新たな記録を加えることになります。刻印は歴代の優勝年と国名を記録する仕組みであり、同じ国が複数回優勝した場合も、それぞれの大会の記録として扱われます。
ここで重要なのは、刻印の数が優勝した国の種類の数と必ずしも一致しない点です。たとえば、アルゼンチンは1978年、1986年、2022年に優勝しているため、国名は異なる3大会の記録に登場します。
また、FIFAがトロフィーを管理し、刻印を追加することによって、歴代優勝国の記録が一つの物体に集約されます。これは、優勝のたびに別のトロフィーを新造する方式とは異なる、現行トロフィーならではの特徴です。
【コカ・コーラのトロフィーツアー】2006年から2026年までの変化
ワールドカップトロフィーは、大会の決勝会場だけで見られるものではありません。FIFAとコカ・コーラが展開する「FIFA World Cup Trophy Tour by Coca-Cola」では、ワールドカップ開催前に本物のトロフィーを各国・各地域へ運び、ファンが間近で見られる機会を設けています。
2006年に始まったトロフィーツアー
第1回のコカ・コーラ FIFAワールドカップトロフィーツアーは、2006年のドイツ大会を前に実施されました。FIFAワールドカップトロフィーの歴史に関する資料によると、2006年1月から4月にかけて、世界28か国の31か所を巡回する企画として展開されました。
このツアーは、ワールドカップの象徴を開催国以外のファンにも届ける取り組みです。テレビ画面越しにしか見られなかった本物を間近で見る機会を提供することで、大会への期待感を高める役割を担ってきました。
2026年大会に向けたツアーの最新情報
2026年大会に向けたトロフィーツアーは、FIFAとコカ・コーラが2025年12月に発表し、2026年1月3日にサウジアラビアのリヤドから世界巡回を開始しました。FIFAの発表では、30の加盟協会を訪問し、75か所を巡り、150日を超える日程で実施する計画が示されました。
北米では、カナダ、メキシコ、米国の3開催国を巡回。FIFAが2026年1月に公表した計画では、大会の開催都市16か所すべてに加え、22の追加市場を訪れることが盛り込まれていました。全体のツアーは2026年大会の開幕に向けて展開され、世界各地でファンが本物を見られる機会を設けました。
2026年のツアーは、2006年の初回から20周年にあたります。コカ・コーラの発表によると、これまでのツアーには182の市場で400万人を超えるファンが参加してきました。単なる展示にとどまらず、サッカーを通じた地域交流やファン向けイベントとしても定着しています。
ただし、ツアーで本物を見られることと、触れたり持ち上げたりできることは別です。一般の来場者が体験できるのは、FIFAの管理下で公開される鑑賞や関連イベントが中心であり、トロフィーそのものを自由に扱えるわけではありません。
2006年のツアーから2026年のツアーまでを振り返ると、ワールドカップトロフィーは優勝チームだけのものではなく、世界中のファンが大会の歴史や象徴性を共有するための存在へと広がってきたことが分かります。
【ワールドカップトロフィー】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ワールドカップトロフィーの正式名称は何ですか?
A1:現在の正式名称は「FIFA World Cup Trophy(FIFAワールドカップトロフィー)」です。1930年から使用された初代は、1946年に「ジュール・リメ・トロフィー」と改称されました。両者は別のトロフィーです。
Q2:ワールドカップトロフィーの値段はいくらですか?
A2:FIFAが公表した公式販売価格はありません。2026年6月のLSEG Metals Researchの試算では、トロフィーに含まれる金の価値は約71万3000ドルでした。約2000万ドルという数字も流通していますが、公式な鑑定額や売買価格として確定した数字ではありません。
Q3:ワールドカップで優勝した国は本物を持ち帰れますか?
A3:本物は表彰式で掲げられますが、式典後にFIFAへ返却されます。優勝チームには金めっきの「FIFAワールドカップ・ウィナーズ・トロフィー」が渡されますが、こちらも大会規則上はFIFAの所有物です。
Q4:盗まれたトロフィーを発見した犬の名前は何ですか?
A4:犬の名前はピクルスです。1966年、ロンドン南部で飼い主のデビッド・コーベットと散歩していた際、新聞紙などに包まれたジュール・リメ・トロフィーを発見しました。
Q5:トロフィーの台座には、どのような情報が刻まれていますか?
A5:現行トロフィーの台座の下側には、1974年大会以降の優勝年と優勝国名が刻まれています。2022年大会までに13大会分の記録があり、2026年大会の優勝記録も新たに加わります。
まとめ:ワールドカップトロフィーの価値は金の価格だけでは測れない
ワールドカップトロフィーの正式名称は「FIFAワールドカップトロフィー」。18金製で重量6.175kgという仕様を持ち、1974年大会から世界最高峰のサッカー大会を象徴してきました。金の素材価値には市場価格に基づく試算がありますが、歴史的価値やスポーツ文化における意味まで含めると、単純な価格だけでは評価できません。
初代ジュール・リメ・トロフィーは、ブラジルが3度目の優勝を果たした1970年に永久保持されました。しかし、1983年に盗まれてからは行方不明です。1966年の盗難事件では犬のピクルスがトロフィーを発見した一方、1983年の事件ではそのような結末を迎えませんでした。
現在の制度では、本物はFIFAが所有・管理し、優勝チームは表彰式後に返却します。台座の下側には1974年以降の優勝年と国名が刻まれ、2026年大会の記録もその歴史に加わります。
トロフィーの歴史を理解するうえで大切なのは、初代と現行の違い、素材価値と歴史的価値の違い、そして表彰式で掲げることと永久に所有することの違いを押さえることです。2026年大会をきっかけにトロフィーへ関心を持った人も、こうした背景を知れば、優勝チームが黄金のカップを掲げる瞬間を、これまでとは違う視点から楽しめるはずです。